日本酒 中垂れとは|香りと旨みが調和する中取り部分の魅力
日本酒の世界には、「あらばしり」「中垂れ(中取り)」「責め」という、搾り工程に関する言葉があります。その中でも「中垂れ」は、香りと味のバランスが最も優れているとされる部分。蔵元では特別な日本酒として瓶詰めされることも多く、日本酒愛好家たちにとっては見逃せない存在です。本記事では「日本酒 中垂れとは何か?」を中心に、その意味、特徴、味わい方、選び方までを詳しく紹介します。日本酒をもっと深く味わうきっかけにしてみましょう。
1. 「中垂れ(なかだれ)」とは何か?
日本酒における「中垂れ(なかだれ)」は、酒造りの中でも特に繊細で重要な部分です。日本酒は発酵を終えた「もろみ」を搾ることで液体と酒かすに分けますが、その搾りの過程は大きく三段階に分けられます。最初に自然の圧で流れ出る「あらばしり」、続いてバランスの取れた「中垂れ(中取り)」、そして最後に圧力をかけて得られる「責め」です。このうち中垂れは、まさに搾りの“黄金期”ともいえる部分になります。
中垂れ部分は、味わいに雑味がなく、澄んだ香りと柔らかい旨みが絶妙に調和しています。酒質が安定し、全体のバランスが整うタイミングでもあるため、蔵元によっては特別に中垂れ部分だけを瓶詰めして出荷することもあるのです。そのため「中垂れ酒」や「中取り酒」は、酒通の間では“もっとも美味しい部分”と評されることが多いです。
中垂れは、まるで音楽のクライマックスのように、香りの華やかさと口当たりの滑らかさが心地よく広がります。はじめて日本酒に触れる方にもおすすめできる、バランスに優れた一杯。それが「中垂れ」という存在なのです。
2. 搾り工程の流れを理解しよう
日本酒造りの最後の重要な工程が「搾り」です。発酵を終えたもろみを搾ることで、液体の日本酒と固形物の酒かすに分けます。この段階こそが、酒の性格や香り、口あたりを決定づける大切な瞬間です。搾りの方法にはいくつか種類があり、それぞれに味わいや中垂れの表情が異なります。
昔ながらの方法である「槽(ふね)」は、布袋に入れたもろみを重ね、自然の圧力でゆっくりと酒を流し出す方法。時間をかけて搾ることで、雑味が少なく、味わいに深みが出ます。機械による一般的な方法が「ヤブタ式」で、圧力を一定にかけて効率よく搾ることができるため、安定した品質を保ちやすいのが特徴です。そして近年注目されているのが「遠心分離」。圧力を使わずに物理的な力で分離するため、繊細な香りを守りながら搾ることができます。
この搾り工程の中で、「中垂れ(中取り)」はちょうど香味のバランスが整うタイミング。最初の「あらばしり」は勢いがあり荒々しく、最後の「責め」は濃密で渋みが出やすいのに対して、中垂れは澄んだ香りとまろやかな旨みが美しく調和します。搾りの方法によって微妙に個性が変わるため、蔵ごとに異なる中垂れの味わいが楽しめるのです。
3. 「あらばしり」「中垂れ」「責め」の違い
日本酒の搾り工程では、「あらばしり」「中垂れ(中取り)」「責め」という三つの段階があります。それぞれの部分で味わいや香りの表情が変化し、日本酒の奥深い魅力を生み出しています。同じもろみから取られたお酒であっても、この工程の違いによってまったく異なる風味を楽しめるのです。
まず、「あらばしり」は搾り始めに自然と流れ出る部分です。圧力をかけずに流れ出すため、口あたりは瑞々しく勢いがあり、若々しい印象を持ちます。一方で、原酒らしい荒々しさや微発泡感が残ることも多く、伸びやかな香りと軽快な飲み口が特徴です。フレッシュで力強い日本酒を好む方に人気のある部分です。
次に「中垂れ(中取り)」は、搾りのちょうど中盤にあたる部分。香りと旨みのバランスが絶妙で、滑らかな口あたりと透明感ある味わいが広がります。酒質が安定しており、香味のピークを迎える最も完成度の高い部分といわれます。多くの蔵元がこの部分を特別に瓶詰めして「中取り酒」として限定出荷しているのもそのためです。
最後の「責め」は、圧力を強めてしっかりと絞り出した終盤の部分です。濃厚で深みのある味わいが出る反面、タンニンによる渋みや苦みが感じられることもあります。この部分は、ブレンドに使われたり、燗酒向けに仕立てられることもあります。
このように、日本酒の搾りはひとつの工程でありながら、三つの個性が生まれる芸術的な作業です。中でも中垂れは、その調和された美味しさから「酒の真骨頂」と呼ばれるにふさわしい存在なのです。
4. 中垂れ部分が「美味しい」といわれる理由
中垂れが「最も美味しい部分」と言われるのには、いくつかの理由があります。まず第一に、酒質がとても安定していること。搾りの前半である「あらばしり」はまだ発酵中の香気成分や炭酸が強く、やや荒々しさや若さが残っています。一方、搾り終盤の「責め」は、圧力が強まることで濃厚ではあるものの、渋みや苦味が混ざりやすいのが特徴です。その中間に位置する中垂れは、発酵のピークを過ぎて味が落ち着き、香りや旨みのバランスが最も良い状態に整っているのです。
中垂れ部分では、アルコールや有機酸の比率も理想的な範囲にあり、香りは穏やかでありながら芯が通っています。口に含むと、やさしい甘みと柔らかな酸が絶妙に溶け合い、スッと消えていくような心地よい後味を感じることができます。この「香り・甘み・キレ」の三拍子が揃うことで、完成度の高い酒質が生まれるのです。
この絶妙な調和こそ、蔵人たちが「中取り」「中垂れ」を特別に瓶詰めして世に出す理由でもあります。まさに中垂れは、造り手が望む理想の状態が詰まった瞬間。雑味がなく、清らかでありながら深みのある味わいは、“日本酒の黄金バランス”と呼ぶにふさわしい輝きを放っています。
5. 中垂れがもたらす香りと味の特徴
中垂れの日本酒が持つ魅力は、その香りと味わいの繊細なバランスにあります。香りの主張が強すぎず、しかししっかりと個性を感じさせる透明感のある芳香が特徴です。ほのかに果実のような香りが漂い、口に含むと優しい甘みと柔らかな酸味が広がります。この上品な調和こそが中垂れならではの味わいといえるでしょう。
中垂れ部分は、搾りの最中でもっとも雑味が少なく、旨みの輪郭が澄んでいる状態です。そのため、飲み口にスムーズな伸びがあり、後味には心地よい余韻が残ります。まるで清らかな湧き水のような印象を与えながら、芯の通った旨みがゆったりと口いっぱいに広がっていく――そんな繊細で優雅な味わいが中垂れの魅力です。
また、中垂れは香りと味の“中庸”とも言える存在です。吟醸酒の華やかさと純米酒のしっかりとした旨み、その両方を絶妙に持ち合わせています。日本酒に慣れていない方でも飲みやすく、食事との相性も抜群。香りに寄りすぎず、味に偏らないバランス感覚が、多くの蔵人に「中取り酒」を特別な商品として扱わせる理由なのです。
中垂れの一杯には、派手さよりも静かな奥深さがあります。ゆっくりと香りを感じながら味わえば、日本酒の持つ優美さと広がりを再発見できることでしょう。
6. 「中取り」と「中垂れ」は同じ意味?
「中垂れ」と「中取り」は、実はほぼ同じ意味を持つ言葉です。どちらも日本酒を搾る際の中間部分を指し、香りと味のバランスが最も整った部分を表しています。ただし、蔵元や地域ごとに表現の仕方が異なり、「中垂れ」と呼ぶ蔵もあれば「中取り」と呼ぶ蔵もあります。どちらが正しいというわけではなく、造り手のこだわりや伝統がその呼び方に反映されているのです。
「中取り」は、主に酒造業界で一般的に使われる用語で、やや格式のある表現。一方、「中垂れ」は、搾る際に自然に酒が“垂れてくる”様子を表す、情緒的で蔵人らしい言葉と言えます。どちらも中間部分の美味しさを象徴しており、いずれも雑味が少なく、香味の調和が取れた上質な部分であることに変わりはありません。
このため、ラベルに「中垂れ」または「中取り」と記載がある酒は、同じような性質を持ち、品質の高さを示す一語にもなっています。もしお店でどちらの言葉も見かけたら、「ああ、香りと味のバランスが良い部分なんだな」と思って選んでみてください。言葉は違っても、その美味しさの根底にある想いは同じなのです。
7. 中垂れ酒を名乗れるのはなぜ特別なのか
中垂れ酒を「特別」と呼ぶ理由は、その希少性と造りの丁寧さにあります。中垂れは日本酒を搾る途中のわずかな時間帯にしか得られない部分で、香り・旨み・酸味のバランスが最も整った状態です。この限られた瞬間を逃さず取り分けるには、蔵人の感覚と熟練した技が欠かせません。わずかな変化で味わいが違ってしまうため、搾りの時間や圧のかけ方を慎重に見極めながら作業が進められます。
中垂れの量は決して多くありません。搾り始めの勢いのある部分や、終盤の濃厚な部分を除いた“真ん中”だけを取り出すため、どうしても収量は限られます。そのため、蔵元ではこの部分を特別に瓶詰めし、「中取り」や「中垂れ」と名づけて限定出荷することが多いのです。生産量が少ないぶん、造り手の想いとこだわりが込められた貴重なお酒として扱われます。
また、中垂れ酒は繊細な味わいが特徴のため、瓶詰め後の管理や温度調整にも最新の注意が払われます。少量限定であることに加え、造り手の技術と情熱が凝縮された一杯――それが中垂れ酒の特別な価値です。ラベルに「中垂れ」と書かれた日本酒を見つけたら、それはまさに造り手が誇りをもって送り出す、極上の一本といえるでしょう。
8. 食中酒にもぴったりな理由
中垂れの日本酒が“食中酒にぴったり”と言われるのは、その上品で控えめな香りと、穏やかな味わいのバランスにあります。華やかすぎず、程よい存在感を持つ中垂れ酒は、料理の風味を邪魔せずに引き立てる力を持っています。まさに「料理と寄り添う酒」として、食卓を豊かにしてくれる存在です。
たとえば、白身魚の刺身や焼き魚と合わせると、素材の繊細な旨みを壊さず、むしろ清らかな味わいが口の中で調和します。出汁をきかせた煮物やお吸い物との相性も抜群で、料理の余韻と中垂れのまろやかな酸が美しく溶け合います。冷やしてすっきり味わえば魚介や和食に、常温で飲めばだしの旨みを引き上げる柔らかさが際立ちます。
また、中垂れ酒は香りが穏やかで、アルコールの刺激が少ないため、食事中に何杯飲んでも飽きにくいのも魅力です。特に和食好きの方には、料理とともに長く寄り添える理想的な日本酒といえるでしょう。控えめながらも芯のある旨み、やわらかな酸味、そして上品な余韻。それらが一体となって食卓全体を包み込む——そんな魅力が中垂れにはあります。
一口ごとに料理との相性の妙を感じられるのが、このお酒の面白さ。華やかさよりも「心地良さ」を求める方にこそ、ぜひ味わっていただきたい一杯です。
9. 中垂れを見分けるラベルの読み方
日本酒のラベルには、その酒がどのように造られたかを示す多くの情報が詰まっています。「中垂れ」や「中取り」と書かれているものは、搾りの中間部分だけを使用した日本酒であることを意味します。これは、味と香りのバランスが最も整った部分を選りすぐって瓶詰めした証です。そのため「中垂れ」表示のある日本酒は、品質の高さを示す一つの指標として捉えてよいでしょう。
また、ラベルには「無濾過(むろか)」や「生(なま)」「原酒(げんしゅ)」といった言葉が添えられていることもあります。これらは中垂れ酒の印象をさらに際立たせる要素です。「無濾過」は、濾過を行わずに瓶詰めしているため、米や酵母由来の旨みをそのまま閉じ込めたタイプ。「生」は加熱処理をしていないフレッシュさが特徴で、より果実のような香りと瑞々しい味わいが楽しめます。「原酒」は加水していないため、濃厚でコクのある味わいに仕上がります。
これらの要素がラベルに組み合わさることで、「中垂れ」の魅力はさらに広がります。例えば「中取り 無濾過生原酒」と表記されていれば、それはまさに中垂れ部分の旨みを最大限活かした贅沢な造り。ラベルの表記を意識して見ることで、自分が好むタイプの日本酒を選びやすくなります。
「中垂れ」と書かれた一本に出会ったら、それは造り手が最も自信を持って仕上げた証。ラベルの言葉を読み解きながら飲むことで、日本酒の世界がより奥深く、そして楽しく感じられるでしょう。
10. 中垂れの保存と飲み頃のポイント
中垂れの日本酒は、その繊細な香りとバランスの取れた味わいが魅力ですが、その美しさを維持するためには保存方法にも注意が必要です。なぜなら、中垂れは搾りの中間部分という特性上、香味成分が豊かでデリケートなため、保管環境によって味が変わりやすいからです。理想的なのは「冷暗所」での保管。光や高温にさらされると酸化が進み、香りが抜けたり風味が鈍くなったりすることがあるため、直射日光や暖房の近くは避けましょう。
特に「生酒」と表記されているタイプの中垂れは要注意です。火入れをしていないぶん、フレッシュで華やかな味わいが特徴ですが、温度変化に非常に敏感です。冷蔵庫でしっかりと温度管理を行い、開栓後はできるだけ早めに――理想的には数日以内に楽しむのがベストです。栓を開ける前に軽く冷やすことで、香りが引き締まり、中垂れ特有の透明感ある風味を最大限に引き出せます。
一方、火入れタイプの場合はやや安定しており、適度に熟成させると味わいの深みが増すこともあります。ただし、開栓後は空気との接触により酸化が進むため、なるべく早めに飲み切るのが理想です。
“鮮度を楽しむ”ことこそが中垂れ酒の醍醐味。冷たく冷やして香りを引き出すのも良し、常温で旨みを感じるのも良し。飲み頃を意識して味わえば、造り手が目指した香味のピークをそのまま感じ取ることができるでしょう。
11. 中垂れを使った人気の銘柄例
「中垂れ」や「中取り」という言葉を冠した日本酒は、全国の蔵元から数多く登場しています。これらは限られた中間部分だけを丁寧に瓶詰めした特別なシリーズであり、造り手のこだわりが最もよく表れるお酒です。穏やかな香りと滑らかな口あたりが魅力で、日本酒初心者にも飲みやすく、上級者には完成度の高さが感じられる逸品が揃っています。
たとえば、新潟の久保田では上品な香りとキレの良さが特徴の中取りタイプを展開しており、透明感ある味わいが人気です。また、秋田の新政では「中取り純米」が定番で、果実のような香りとふくよかな旨みのバランスが絶妙です。さらに、福島の寫樂(しゃらく)や、広島の雨後の月なども「中垂れ」や「中取り」を名乗る作品を手掛けており、いずれも高い評価を受けています。
これらの銘柄に共通しているのは、雑味のないきれいな味わいとみずみずしい余韻、そして香りと旨みの自然な調和です。派手さはないものの、一口飲むとやさしい旨みがじんわりと広がり、思わずもう一杯と手を伸ばしたくなる――そんな魅力を持っています。
中垂れ酒を選ぶときは、地域による違いや蔵の造りの特徴を感じてみるのもおすすめです。同じ「中取り」といっても、蔵元の個性によって香りや質感が変わります。飲み比べを通じて、自分の好みの中垂れを探す楽しみを見つけてみてください。
12. 中垂れ酒の選び方と楽しみ方
中垂れ酒を選ぶときは、まず自分がどんな香りや味わいを求めているかを意識することが大切です。中垂れは香りと旨みのバランスが取れた部分ではありますが、その中でも系統によって印象が大きく変わります。たとえば、華やかな香りを楽しみたい方には吟醸系の中垂れがおすすめ。リンゴやメロンのようなフルーティーな香りが心地よく、口に含むと軽やかで透明感のある味わいを感じられます。爽やかで繊細な印象は、冷やしていただくとより引き立ちます。
一方で、温かみのある旨みを重視するなら純米系の中垂れを選びましょう。穏やかな香りとしっとりとしたコクが特徴で、常温やぬる燗にすることで米の旨みがふくらみ、深みのある余韻が楽しめます。食事と合わせやすく、和食だけでなく洋食にも調和する万能さがあります。
さらに、季節やシーンに合わせて選ぶのも楽しみ方の一つです。春は華やかな香りの吟醸中取りを、秋冬は腰のある純米中垂れを――そんなふうに気分で飲み分けてみると、日本酒の奥深さをより感じられるでしょう。
中垂れは造り手が特に力を注ぐ部分だからこそ、どの銘柄にも造り手の想いと蔵の個性が詰まっています。ラベルに「中垂れ」や「中取り」と記された一本を手に取ったら、ぜひ香り、温度、料理との組み合わせを変えながら、自分だけの“理想の中垂れ”を見つけてみてください。
まとめ
「中垂れ」とは、日本酒の搾り工程の中でも最も調和の取れた部分を指します。香り・旨み・キレが絶妙に融合する中間のタイミングで採取された酒であり、造り手が理想とする“バランスの美”が詰まった一滴です。あらばしりが持つ力強さや責めの濃厚さとは異なり、中垂れには柔らかさと上品さがあり、飲む人の心をそっと包み込むような味わいを生み出します。
中垂れ酒は、香りも味も主張しすぎず、どんな食事にも自然に寄り添う穏やかさが魅力です。穏やかな果実香、ほどよい酸味、そして口に含んだときの滑らかな質感――ひとつひとつが丁寧に重なり、飲んだ後にふわりと残る余韻が心地よく広がります。この繊細なバランスは、造り手の経験と勘があってこそ実現するものです。
日本酒のラベルに「中垂れ」や「中取り」と書かれているのを見かけたら、それは特に丁寧に搾られた“特別な部分”を瓶詰めした酒の証。造り手が最も美しい瞬間を選び抜いた、まさに蔵の誇りともいえるお酒です。冷やしても温めても上品さが崩れず、食事と合わせることで魅力がいっそう深まります。
中垂れを味わうことは、日本酒の本質――香り、旨み、そして造り手の心を感じることでもあります。次に日本酒を選ぶときは、ぜひ“中垂れ”の一杯を手にとって、その静かな調和の世界を楽しんでみてください。








